最近は少し下火になりましたが、「ビジネスモデル発明」は今でも年間1万件程度出願されています。

「ビジネスモデル特許」は難しい、あまり意味がないとお思いの方もいるかと思いますが、以下の例(ビジネスモデル特許として有名な「パーフェクト特許」)をご覧になれば、「案外、自分でもできるのでは?」と思われるのではないでしょうか?

実際、必要なのは、着想と想像力だけと言ってもよいくらいです。士業ブログに参加されている士業の方やその潜在的クライアントの皆様であれば、業種に関わらずチャンスがあると思います。

ご紹介するのは、特許権者である三井住友銀行が実施している「パーフェクト」というサービスについての特許です。

 特許請求の範囲はこういうものです。

A.選定された複数の関連口座を支払人ごとに関連付けることにより該支払人が前記複数の関連口座を用いて振込を行う振込処理システムであって、
 B.前記振込処理システムを介して前記複数の関連口座に振り込まれた資金を取りまとめるための特定口座に入金処理を行うために、支払人が資金を振り込んだ口座が前記関連口座であることを検出し、前記関連口座を前記特定口座に対応付けることにより、前記特定口座に入金処理を行う入金処理手段と、
 C.前記関連口座への振込情報に対して、前記関連口座の口座関連情報および/または前記関連口座を特定する番号を付加して、前記振込情報を出力する出力手段と、
 D.出力された前記振込情報を前記特定口座の振込情報として格納する格納手段とを備えることを特徴とする振込処理システム

 かみ砕いて説明してみましょう。


実はこの特許は、振込処理システムに関するものです。
 具体的には、銀行が、大学から学生の授業料の振込処理を依頼されたような場合です。
 たとえば、M銀行がT大学の授業料振込み(半期分が52万円)を処理する場合を考えます。学生は何万人もいますが、例として、「坂本雅治」、「小浜次郎」、「小汀(おばま)二朗」、「吉瀬恵理香」、「葛城ミサト」、「葛城めぐみ」という6人の学生を考えます。
 普通、学生はT大学の指定口座、たとえば、M銀行本郷支店の普通預金口座200913に振り込みます。
 ただ、どの学生から振込みがあったか調べるのは結構大変です。振込元の口座名義がカタカナで記録されていると「小浜次郎」と「小汀二朗」は区別できません。授業料は学生本人が振り込むとは限りません。「葛城めぐみ」の母親もたまたま「葛城ミサト」で、この母親が振り込んだりすると、振込人名義だけからでは、学生の「葛城ミサト」から振り込まれたように見えてしまいます。学生が何万人もいると、これらのケースは珍しくないでしょう。振込時に学生番号を付記させたりしますが、入力忘れやミスも発生します。
 そこで、学生ごとに仮の振込先口座をつくってしまう。実は、この特許の本質的なアイデアはほぼここだけです。

 たとえば、
坂本雅治⇒M銀行の本郷支店普通預金口座200913?1
小浜次郎⇒M銀行の本郷支店普通預金口座200913?2
小汀二朗⇒M銀行の本郷支店普通預金口座200913?3
吉瀬恵理香⇒M銀行の本郷支店普通預金口座200913?4
葛城ミサト⇒M銀行の本郷支店普通預金口座200913?5
葛城めぐみ⇒M銀行の本郷支店普通預金口座200913?6
という感じです。残りの学生も同じです。但し、口座番号はあくまで例です。

 特許請求の範囲の「選定された複数の関連口座」は、ここで挙げた本郷支店普通預金口座200913?1以下の口座のこと、「支払人」は各学生のことを指します。
 すると、M銀行では、これらの枝番付きの仮口座への入金だけを見ていればよいことになります。

 つまり、これらの枝番仮口座、たとえば、本郷支店普通預金口座200913?3に入金があると、M銀行システムは、T大学への授業料振込みだと認識します。特許請求の範囲ステップBの「支払人が資金を振り込んだ口座が前記関連口座であることを検出」するのです。振込みがあると、M銀行はそれを200913に移します。ステップBの「前記特定口座に入金処理を行う」というのがそれです。
 同時に、口座と支払人の対応表から「小汀二朗からは入金済み」と記録します。これが上の特許請求の範囲ステップCとDです。

 このようにして期日までに200913?1、200913?3、200913?4、200913?6など9千件の仮口座に振込みがあれば、M銀行は50万円×9千の約47億円(儲かりますね!)をT大学口座に入金し、坂本雅治、小汀二朗、吉瀬恵理香、葛城ミサトなど、払込済みリストをT大学に報告します。

 パーフェクト特許の特許請求の範囲は一見複雑ですが、振込人ごとに仮の振込先口座をつくってしまう という単純なアイデアなのです。また、

 ビジネスモデル特許は資本や技術がなくても取得可能な点が大きなポイントです。経済環境が厳しい今、中小企業やベンチャーなどでは、コストをかけずに経済的価値を生み出し得る知的財産は経営の重要なポイントになりつつあります。ただ、上の例で見たように、特許請求の範囲をきちんと書くというのはかなり技術が必要です。また、明細書にきちんと発明の内容を書かないと特許になりません。また、法律的に複雑な話なので触れませんが、ビジネスモデル特許では複数当事者が関与することが多く、特許請求の範囲の書き方によっては、侵害行為に対してほとんど対処できない場合も出てきてしまいます。特許請求の範囲の書き方がまずいと、価値の低い特許にしかならないのです。

 現在、年間1万件程度のビジネスモデル特許申請がありますが、特許件数は年間800件程度です。普通は出願数の3分の1程度が特許になっていますので、ビジネスモデルは特許になりにくいという印象があります。ただ、これは、「ビジネスモデル特許」に必要なテクニックや知識を持たない出願人・代理人による出願がまだまだ多いことが原因でもあります。

 WIN国際特許事務所所長は過去千件以上の特許出願に関わっており、大学院などでビジネスモデル特許についても研究しております。

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